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天上の睡蓮

 
12
 
 夜が明けようとしていた。
 コンサート会場に入ったのは、まだ日が暮れるか暮れないかの筈だったのに、あの闇が晴れた時にはすでに深夜を過ぎていたのだ。
 もしかすると、あの中は外と時間の進み方が違うのかもしれないと、痛む体を引き摺りながら、瑠意はぼんやりと空を見上げた、
「おい、瑠意。何ぼんやりしてんだ?」
 先を歩いていた刀冴に声をかけられ、慌てて思考を現実へと引き戻し駆け寄るが、バランスを崩しよろめいてしまう。
「すいません、ぼーっとしちゃって」
「おいおい、ぼーとすんのは帰ってからにしろよ」
 流石に倒れはしなかったが、刀冴に支えてもらいながら家路を急ぐ。なだらかな坂道を上ると、そこはもう古民家だった。

「若! 瑠意殿」
 刀冴を呼ぶ声に顔をあげると、玄関から十狼が出て来る所だった。足早にこちらへとやってくる姿に、思わず足が竦む。
「若、斯様な時間まで、何処に行かれていたのか、お聞かせ願いたいものですな?」
 盛大に眉間に皺を寄せる十狼を手で制しながら、刀冴が瑠意を見遣る。
「まぁ、色々あってな。とにかく瑠意の手当をしてやってくれ、事情は直接聞きゃあいいだろ?」
 言外に何かを含んだ物言いに、思わず俯き肩を落とすが、背中を強く押され十狼の目の前へと歩み出た。刀冴の視線が一瞬眇められ、笑みの形に歪む。
 足早に母屋へと消える刀冴を見送って、十狼は軽く溜め息を吐いた。
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17
 
古民家に、高い、金属のぶつかり合う音が響く。
杵間山の麓、天人の刀冴と十狼の住む屋敷。その中庭で、瑠意と十狼が対峙していた。
「おや、瑠意殿。もう音を上げてしまわれるのか?」
切っ先を下に向け、無造作に剣を構えた十狼が、涼し気な表情で立っている。
「くっそ…ッ!まだまだッ!」
肩で息をしながらも、瑠意は天狼を八双に構えて右足で大きく踏み込み、十狼をめがけて突きを放つ。
並の人間なら避けられないであろう渾身の突きを、ほんの少し身体を動かしただけでかわし、真下から剣を揮って天狼を受け流した。
「チッ…!」
瑠意はそのまま左足を軸にして身体を捻り、振り下ろされる十狼の腕に蹴りを入れる。
ガチリと動きが止まった一瞬の隙を突きバックステップで間合いを広げると、瑠意は滴る汗を手の甲で拭った。
「もしかしてこのヒト、銀幕市で最強の部類に入るんじゃねぇか?」
更に上がりそうになる息を整えながら、呟く。
幼い頃から武術と剣術を嗜み、全国大会で何度も優勝した実歴を持ち、銀幕市では数多の規格外なヴィランズ達と対等に戦って来た自分が、これほどまでに無力とは。
その事実に驚愕し、胸が熱くなる。
瑠意は知らず笑みを浮かべて天狼を構え直した。
 
26
 
3時限目が終り、音楽の選択授業を受ける為に瑠意が廊下を歩いていると、後ろから数人の足音が追い掛けて来る気配がした。
「片山先輩、どちらへ行かれるんですか?」
立ち止まり振り返ると、息を切らせて走って来たのは一年生のクラスメイトPもとい、リチャードだ。その後ろには、バロアと梛織(ナオ)の姿も見える。
 
19
 
少しばかり早目に帰宅出来た事を幸いに、瑠意はのんびりとワイングラスを傾けながら、リビングでCDを聴いて居た。
手元のワインが空になり、新しいボトルを持って来ようと立ち上がった刹那、轟々と風が吹き、カーテンが大きくはためいた。
「風が強いな……」
呟いて窓辺に近寄った瑠意は、不意に現れた人影に息を呑む。
「瑠意殿、お邪魔いたす。」
「十狼さん!」
人影は友人である刀冴の守役、十狼だった。
背後には十狼の召喚した黒竜が空中に静止したまま轟々と羽ばたき、強風を巻き起こしている。
十狼は沈みゆく夕陽を背に輝く銀の双眸を細め、手にしていた籐の篭を無造作に差し出した。
「……これは?」
不思議そうな表情で篭を見詰めていると、十狼が武骨ではあるが長く形の良い指で、掛けられていた布を捲った。
「刀冴様が作られた“漢パン”と申す代物でな。何でも、銀二殿を模して作られたとか」
「嗚呼、浅間ちゃんと作ったとか言ってた ―――― 。って、ちょ、待っ……ッ!」
頓狂な叫びと共に、思わず受け取ろうとした瑠意の手が止まる。
「……? いかがなされた、瑠意殿?」
「いや、その、なんッか此れ、やけにリアルじゃねぇ?」
十狼に手にした篭の中には、こんがりと焼けた“我等がアニキ・八之銀二”を模したパンがギッシリと詰まっていた。
「まぁ、確かに。見た目は多少リアルに過ぎるが、天然酵母と国産小麦を贅沢に使用した刀冴様自慢の一品。是非とも瑠意殿にも召し上がって欲しいと使いを仰せ付かった次第なのだが」
見ると、十狼も何処か困ったような神妙な面持ちで“漢パン”を見詰めている。きっと、彼も刀冴に何かツッコミをしたかったのであろう事は、想像に難くない。
もしかしたら、この守り役の事だ、既に一つや二つは言ったかもしれなかったが。
「さあ、瑠意殿、受け取っては頂けぬか?」
十狼の声に我に返り篭に手を伸ばすも、再び躊躇ってしまう。
「何か問題でも?」
「いや……人肌っぽい手触りだったら如何しようかなー……って」
「まさか、その様な事は有りはせぬよ。普通と何ら変わらぬパン故、ご安心召されよ」
そう言って十狼が微笑むに至って、ようやく瑠意は篭を受け取った。
瑠意が恐々と指先でパンを突いていると、不意に十狼のしなやかな手が伸び、漢パンの端の方を一欠け摘み取る。
「そんなに不安ならば、ひとくち食べて御覧になれば宜しかろう?」
ズイとその指先にパンを摘まれて差し出され、瑠意は素直に口を開けて雛鳥よろしくパンを頬張った。
「ん、美味い」
「刀冴様が作られたのだから、当然だな」
十狼は真顔で言いながら、瑠意の腰を引き寄せた。
「じ、十狼さん?」
慌てた瑠意の様子に銀の双眸が笑みの形を作り輝く。
「もう少しそなたと逢瀬を交したいのは山々だが、刀冴様が待っておられるのでな、此れにて失礼仕る」
そう言って笑うと、十狼は瑠意に翳めるような口付けをひとつ落とし、ひらりと黒竜に跨った。
「嗚呼……後日で構わぬが、感想を刀冴様に伝えてはくれぬか?今後の為にも皆の意見が訊きたいのだそうだ」
逆巻く風の音にも関わらず、朗々とした声が平素と変わらぬ口調で告げる。
深く瑠意が頷くと十狼は微かに微笑みを返し、風の様に夕闇へと消えて行った。

瑠意はそれから暫くの間、十狼の深い森を思わせる残り香を惜しむように、その場に立ち尽くしていた。

   END

*****

やっと書き上がりました。微妙に薄ピンクで申し訳な…orz
というか。この後、瑠意はイチゴジャム(臓物?)入りの漢パンをウッカリ切ってしまい、余りのリアルさに悲鳴を上げたとか上げなかったとか…。

「マジで吃驚したけど、乱切りにして意地で食った!」

…だそうです。他にも胡桃入りとかライ麦パンとかがあって、大層美味しかったそうですよ?
 
07
 
瑠意は鏡の前に立ち、自らの左肩から心臓の上を通り、右脇腹へと続く大きな疵痕にゆっくりと指を這わせた。

あの日から、消える事の無い、疵と痛み。
この疵が痛む度に思い出す。

「いやだ…死にたくないよぅ…」

最愛の妹、真名の最期を。
血の繋がりは無くとも、真名とはそれ以上の絆で結ばれていた。
真名は、瑠意が自分の実の兄では無いと知ってからも、以前と変わらず……否、今まで以上に慕い、自慢の兄だと言ってくれた。
お兄ちゃんは幸せにならなきゃダメなの!と、真っ直ぐな瞳で見詰め、屈託なく笑った。
そんな優しい妹を、あの悪魔の手から救えなかった。

何度も、何度も、何度も、何度も、際限無く繰り返される悪夢。
夜毎魘され、叫びながら飛び起きる度に、母親は自分を優しく抱き締め、背中を擦ってくれた。
父親は、真名を守って付いた疵なのだから、何も恥じる事は無い。と、言ってくれた。
……だが、瑠意には真実それが辛かった。

―――― 何故、自分では無かったのか。

あの時、自分が死んでいれば、両親はこれ程までに悲しまなかったのではないのか?
真名を守れなかった俺を、心の底では恨んでいるのではないのか?
そうやって自分を責め続け、生きて来た。

あの“ナイトメアの悪夢”を観る迄は ―――― 。

芳しい薔薇の香りと眩い光の中で、真名は微笑んで居た。否、微笑んでいるように見えたのかもしれない。

―――― どうか私の分まで幸せに……。

だから、これからは前を向こう。もう誰も悲しませないように。
それが俺の幸せなのだから。

その為に、俺は此処に居るのだから。

   END

*****

微妙に以前のSSと被るのですが(笑)
瑠意の体には、大きな疵跡がありますよ。というのを書きたかったのです。
 
25
 
瑠意はコモン隊の、見事なまでの嵌りっぷりに天狼剣を構えたまま、深々と溜め息を吐いた。
落とし穴にワニのミイラの襲来、そして今や生き埋め寸前。
セオリー通りの展開だ。

「此れを“普通”と言わずして何と言うんだ?」

ぼそりと呟きながら、辺りの様子を窺う。

例えば、天狼剣で一気に砂を巻き上げながら先に進むとしても、何時またワニのミイラに襲われるか解らない。
最悪の場合、その先は何も無い行き止まりで、そのまま砂に埋れてジ・エンド…の可能性も捨てきれない。…というか、そちらの確率の方が高そうだ。

では、何らかの方法で上に戻り、退路を確保するべきなのか…?

瑠意は他の隊の通信の様子から、大体の見取り図を頭の中に描く。
今なら上の【紅蓮隊】に追い着き、ブラックウッド率いる【暁星団】の居る地点へと合流出来る筈だ。
その先は、まぁ…なるようになるだろう。
根拠は無いが、あのブラックウッドが居るなら何があっても大丈夫、そんな気がする。

「だけど、やっぱり気になるんだよな~?」

そう言って瑠意は砂が溢れ続ける通路の先に目を遣った。
漆黒の闇がぽっかりと開いた其処は、瑠意の好奇心を刺激して止まない。

―――― 時間が無い。

全てが砂に埋れてしまう前に決断を。

「銀さん…皆 ―――― !」

瑠意は、ぎり、と拳を握り締め、恐らくは心中で同じ選択を迫られているであろう八之や仲間達の背中を見詰めて叫んだ。

八之に、そして仲間達に、自らの意志を伝える為に ―――― 。

*****

はい、昨日は情報の整理をしていて知恵熱を出しました。そんな中の人です。

黒木さんの中の人も日記で書いていらっしゃいましたが、あの女性の存在がさっぱり解りません。
下層と上層で遺体と魂が分けられてるっぽいですけど…?

もう一度、図を描き直して考えようと思います。
ぶくぶくぶく…(沈)
 
17
 
ランチを終えて事務所へと戻った瑠意は、来客用のソファーに寝そべって銀幕ジャーナルを読み耽っている後輩『斎藤 海(カイ)』の姿を見付けた。
どうやら真剣に読んで居るらしく、瑠意が結構な足音を立てて近付いているのに、全く気付く気配が無い。
「おい、海。」
「ひゃいっ?」
半ば溜め息混じりで呼ぶと、素っ頓狂な声を上げて海が飛び起きる。
「やだなぁ、先輩。脅かさないで下さいよ~!」
彼は去年の春、事務所に入って来たばかりの新人だ。
彼は、憧れの銀幕市で暮らしたいからと、親元を離れて学業とモデルを両立しながら生活している。
「お前が気が付かなかっただけだろう?」
そう言って軽く小突いてやると、海は照れくさそうに「えへへ~☆」と笑った。
 
26
 
「おっそーい!何やってたの?」
瑠意が銀幕中央駅の待ち合わせ広場に着くと、樋口悠(ヒグチユウ)は開口一番、頬を膨らませた。
「悪い、リハが押しちゃってさ。メールも打てなかったんだ。」
瑠意は苦笑いしながら彼女の手から荷物を受取り、駐車場へと歩き出す。
その後を歩きながら、彼女は溜め息を吐いた。
「あんたは昔から何かにのめり込むと、すぐに周りが見えなくなるんだから。」
「え、そうかな~?」
悠が助手席に乗り込みシートベルトを装着するのを確認すると、ゆっくりと車を発進させた。

彼女、樋口悠は瑠意にとっては姉のような存在だ。
実際、彼女は皆に『姉さん』と慕われており、自身が里親に引き取られてからも頻繁に孤児院にやって来ていた。
そしてそれは彼女が成人し、結婚してからも変わる事は無く、中でも瑠意は何かにつけて可愛がられていた。
今日、彼女が銀幕市に来たのは、観光する為だと言って居たが、瑠意の様子を見に来たついでに、と言うのが正直な所だろう。

「ところで、今日は何かのお祭り?」
車窓から落ち着かない様子で外を見ていた悠に不意に尋ねられ、瑠意は不思議な表情で彼女を見詰めた。
「市内に入った途端、仮装した人がぞろぞろ増えて来るし、あちこちで大掛りな撮影してるみたいだし…。いくら日本のハリウッドと言われる都市だからって、騒がし過ぎじゃないかしら?」
不思議そうに首を傾げる彼女に、瑠意は思わず乾いた笑いを洩らした。
「あー。まぁ、此処は毎日がお祭りみたいな街だからな。」
そう言って、メインストリートを抜け、湾岸線へと続く道へと左折すると、100m程先の道を塞ぐようにしてスクールバスが停車しているのが瑠意の目に止まった。

「あれは…?」
綺羅星学園幼等部のスクールバス ―――― 。
よく見ると、バスの周りには全身タイツの男達が20人ほど各々武器を手に取り囲んでいる。
そして少し離れた場所には、派手な軍服もどきの衣装を着た男が何事かを喚き散らしていた。
「何かの撮影かしら?」
怪訝な表情で様子を窺う悠。
瑠意はその光景に思わずガックリと項垂れた。

それもその筈。
バスを襲っている連中は、瑠意がかつて出演していた【竜王戦隊 リュウガナイト】の前番組である【弾丸戦隊 ダンガイナー】の怪人とその手下だったのだ。
声高に指揮を執る怪人は、番組編成期に製作された【ダンガイナーVSリュウガナイト・世紀の決戦!】と言う映画の中で、真っ先にやられる典型的雑魚キャラ【ドアーク将軍】だ。

「ホントにあの映画に出てなくて良かったと、心から思うね…。」
瑠意はハンドルに突っ伏しながら呟いた。
 
19
 
銀幕自然公園の高台で皆と分かれた瑠意は、安堵の溜め息を吐き、天を見上げた。
目を閉じると、大きなテデイベアを抱き、嬉しそうに笑う少女の姿が浮かぶ。

彼女を守る事が出来て良かったと、心から思う。
あどけない少女の笑顔を。

俺はただ守りたい。
自分の、そして誰かの大切な何かを。

―――― その為なら、俺は強くなろう。

それは正義でも何でもなく、もしかしたら自己満足なのかもしれない。

―――― 自分は贖罪の為に剣を揮い続けるのかもしれない。

最愛の人達を二度も目の前で喪失ってしまった。
その命と引き換えに救われた。
この命と引き換える事も叶わず、救えなかった。

もう二度と、後悔はしたくない。

どんなに辛かろうが、苦しかろうが、俺は前に進む。
そう決めたのだ。

もう誰かの哀しむ姿を見たくない。
誰も哀しませたくは無い。

だからこそ、勝ち続けなければならない。
生きて、守り続ける為に…。

ブラックウッドの機転によって、一時的にではあるけれど、彼女の呪いは解かれた。
それが何時まで続くか誰にも分からない。

それでも、喪失さなくて良かったと、心から思う。

―――― 君はひとりじゃない、どんなに離れて居ても、僕の心は君と共に…
辛い時、寂しい時には何時でも僕を呼んでおくれ ――――

瑠意は囁くように歌うと、ゆっくりとした歩みでその場を後にした。

   END
 
29
 
災厄は、突然やって来る ―――― 。

瑠意は近々行われる新しい演目の上演を控え、リハーサルが続く毎日を過ごしていた。
深夜、事務所に戻ると、所長が冷蔵庫の前で、怪訝な表情をして立ち尽くして居る。
「どうしたんですか?所長。」
と、尋ねた声で彼女は我に返り、勢い良くこちらに向き直った。
「無いのよ…。」
「は?」
ぼそりと呟かれ、訳が分からず思わず聞き返す。
「夜食の楽しみに買って置いた、カフェ・エトワールのケーキが無いのよッ!」
まるでこの世の終りとばかりに泣き崩れる彼女を呆然と見詰め、なだめる様に声を掛けた。
「誰かが食べたとかって、考えられませんか?」
「いいえ、ケーキを冷蔵庫に入れる前から今まで、私以外は事務所に居なかったわ!」
そうキッパリと断言され、肩を落とす瑠意。
「マネージャーもプリンやアップルパイが無くなったって、大騒ぎしてたし…。」
深々と溜め息を吐いた彼女の台詞に、嫌な予感がした。

瑠意が恐る恐る冷蔵庫を開けると、そこにあった筈のケーキ箱が無い。
「ここに薄緑色のケーキ箱ってありませんでしたか?」
青くなりながら冷蔵庫を指差すと、彼女は弱々しく首を振った。
「私が朝に見た時には有ったけれど…?」
「嘘…だろ?」

その箱に入っていたのは、最近人気のカフェ『楽園』の季節のケーキ“木苺のタルト”だったのだ。
美しい森の娘たちが森から摘んで来た新鮮な木苺を使った、数量限定のタルト。
開店前から並び、ようやく手に入れたというのに…。

「有り得ねぇだろ!今度は何のハザードだよ!」

…そして瑠意は翌日、馴染みのカフェで真実を知る事となるのであった ―――― 。

   END
 
10
 
…俺は銀二と刀冴、ふたりの男と対峙していた。
銀二の手には抜き身の長ドスが握られ、刀冴の手は何時でも鯉口を切れるよう、愛刀【明緋星】の柄にかけられている。

『お前は、誰を殺りたいんだ?』

俺の正面に斜に構えて立つ銀二が問う。

『俺は…俺自身を殺したい ―――― 。』

だが、銀二は表情を厳しくしたまま、何も答えない。

『 ―――― 違うな。』

不意に、壊れた石柱に背を預けていた刀冴が呟き、真っ直ぐな瞳で射るように俺を見詰めた。

『本当の事を言え。』

銀二が更に問う。
俺は自らの剣を地面に突き立て、ふたりの男を交互に見据えた。

『俺が真に殺したい相手は ―――― 。』

その答えに、ふたりは口の端を歪め、壮絶な表情で笑った。
まるで最初から答えを知って居たかの様に。
俺の心を見透かす様に。

俺も釣られて歪んだ笑いを浮かべると、参ったとばかりに両手を挙げ、ふたりに歩み寄る。

殺したい程に憎い…奴の息の根を、今こそ確実に止める為に ――――。

 *****

ほんのり殺伐とした今朝の夢。
俺が殺したかったのは、果たして誰なのだろうか?
 
06
 
深夜、瑠意は長細い包みを抱えて帰宅した。

ドッカリとソファーに腰を下ろし、包みを解くと、中から漆黒の鞘に包まれた、全長120㎝程のバスタード・ソードが姿を現す。
ゆっくりと鞘から剣を抜くと、銀色に輝く刀身には、流れるようにエルフ語と思われる文字を表した紋様が刻まれている。
なめした銀竜の鱗でしつらえた柄を保護するように巻かれていた黒い皮帯には、紋様の意訳と伝承が書かれていた。

「 ―――― 天狼剣、か。」

それは、疾風の王に従えた黒き狼“天狼”の化身。

「…お前が俺を選んだんだな?」

語りかけるように言うと、肩の上で興味津々に剣を見詰めていた“まゆら”が小首を傾げた。

皆に誘われて行った【地獄で忘年会!】の余興で、あの“星ノ王”の転生体と言われる唯瑞貴と手合わせをし、闇鍋パーティで大騒ぎをした。
あまつさえ、人間には決して手に入れることが出来ないであろう、貴重な剣まで貰ってしまうなんて…。

ふと、思わず笑みがこぼれる。
共に笑い、悲しみ、馬鹿騒ぎをする…。
そんなかけがえの無い友人達との出会いがあった一年だった。

「年忘れ…にはならないだろ、これは。」

瑠意は“天狼剣”を丁寧に包むと、衣装ケースの一番手前に仕舞う。

「忘れられない、思い出だ。リオネちゃんの魔法に感謝、かな?」

温かい、養父の家に居た頃のように賑やかなひととき。
本来出会うはずでは無かったであろう人達との出会いを、今は大切にしたい。

「来年はどんなお祭りが待っているんだろうな、相棒?」

衣装ケースの扉を閉め、瑠意は“まゆら”の頭をそっと撫でてやった。

   END
 
01
 
朝、起きたら何だか街中が大変な事になっていた。
大慌てで市役所に行ってみると、俺と同じ様に混乱した市民が大勢押しかけている。
市長が急遽立ち上げたと言う「映画実体化問題対策課」の植村さんの話によると、この銀幕市に何らかの異変が起こり、映画の中の登場人物が現実世界に現れてしまったのだとか。

―――― 確かに目の前をレディMが普通に歩いてりゃ、信じるしかないわな…。

大急ぎで作られた銀幕ジャーナルの号外と市役所の発行している銀幕ガイドによると、俺の肩に暢気にぶら下がっている謎の生き物“バッキー”で、映画から出て来た登場人物【ムービースター】達の起こすトラブル【ムービーハザード】を解決しなきゃならないらしい。
バッキーは、この【ムービーハザード】や、悪のムービースター【ヴィランズ】達を喰らい、フィルムへと変える能力を持っているのだ。

ってことは、こいつにもそんな能力があるってのか…?
「きゅ~♪」
緑色のバッキーは、指先で軽く突いてやると、くすぐったそうに鼻を鳴らした。
そう言えば、俺みたいな【ムービーファン】には、それぞれに1匹づつバッキーが与えられる、とも言ってたっけ?
実際に、此処にも何人かバッキーを連れてるヤツが居るし…。
だとしたら、こいつにも何か名前をつけてやらなきゃ不便かもな?

「う~ん…そうだな“まゆら”なんてどうよ!」
ほんの少しの間…玉響の夢かもしれないけれど、それでも構わない。
引っ越して来て早々にトンデモナイ事になったが、俺としては退屈しないで済みそうだ。

円らな瞳の相棒は、嬉しそうに「きゅ!」と鳴いた。

   END
 
27
 
日本のハリウッド ―――― 銀幕市。

海岸に近い真新しいマンションの一室、ダンボールが所狭しと置かれた部屋で、片山瑠意は大きく欠伸をした。
「まさかこんな時間になるとはなぁ…。」
グルリと部屋を見回して、布団の敷かれた床に寝転がった。
引越し業者が事務所の手違いで手配されず、結局は夜中に荷物を運び込む羽目に陥ってしまったのだ。
「ま、転入届は明日行けば良いだろう。週末は片付けをして…新しい事務所にも挨拶に行かなきゃ…。」
ぼんやりと考えながら、欠伸を噛み殺す。
いくら俳優が体力資本だといっても、引越し業者に混じって荷物を運んでいれば疲れもする。
部屋の電気を消し、薄手のタオルケットを手繰り寄せ肩まで潜り込むと、エアコンのタイマースイッチをオフに入れた。

翌朝。
「…なんっか変な夢を見た気がするんだけど……ん?」
大きな伸びをして起き出した瑠意は、蹴飛ばしたタオルケットがモゾモゾと動いているのに気がついた。
不思議に思って何気無く捲ると、其処に居たのは小さな緑色の生き物だった。
「何だこりゃ?」
思わず抓み上げて目の前に持ち上げると、その生き物はジタジタと暴れた。
「きゅ~!」
色はパステルグリーンと白の二色、大きさは15㎝くらいで両掌に乗るほど。
鼻が長く円らな瞳が可愛らしい、獏に似た生き物だった。
「…獏?」
呟くと、獏に似た生き物が『ちょっと違う』とでも言いた気に首を傾げる。
「 ―――― バッキー?」
ふと思いついた瞬間、瑠意は目覚める直前に見た夢を思い出していた。
『 ―――― …… 火の粉は …… だろう …。』
ガシャアァァーーーーンッ!
凄まじい音に驚きカーテンを開けると、街中が映画の世界へと変貌を遂げていた。

それはこの街に住む人々の、不思議な日常の始まりの合図に過ぎなかった ――――。

   END

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★ハーヴェイ・イングラム 24歳
 【ツーリスト】
クラウディア皇国第4騎士団団長。
壱番世界における中世ヨーロッパに似た、魔法や幻獣が存在している世界からやって来た。
元は農民の子だったが、戦禍で両親を喪い彷徨っていた所を、代々皇家剣術指南役を務めているイングラム家の当主に拾われ、史上最年少の騎士団長となる。
甘いものと美味しい物が大好きな食欲魔人。
奢ってくれる人にはすぐ懐く。
 イラスト【新田 みのる】


★狩納 蒼月 37歳
 【ツーリスト】
「狩納 京平」の師匠。
死に瀕して覚醒し、気がつくと異世界にいたが、その理由を覚えていない。
管に収められた「天狐」と呼ばれる式神と、影に潜む二柱の鬼神を使役する。
陰陽道や修験道を得意とし、呪殺、禍事、退魔などを生業とする退魔師。
 イラスト【晏嬰 亮】


★石川 五右衛門 39歳
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海賊。反幕府組織のリーダーとして海賊船「神風丸」を操り、幕府に与する廻船問屋などの船を襲う義賊。
6年ほど前にロストナンバーとなり、壱番世界で行き倒れていた所をとある人物に拾われた。
その人物に対し一宿一飯の恩義を感じ、護衛として主に壱番世界で暮らしている。
壱番世界では「阿久津 刃(アクツ・ジン)」という名で俳優業をしている。
 イラスト【Jack。】


★迦楼羅王 29歳
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武神将(仏法守護神)。
天魔討伐の実動部隊「天竜八部衆」の長。
かつて天上界に対して反乱を起こし粛清され、人間として転生させられていた。
迦楼羅王の前世である「ガルーダ(赤き翼を持つ古の神/鳥の王)」の記憶と、人間であった時の記憶を持っている。
またの名を「天空の食欲魔神」と言うとか言わないとか。
 イラスト【Jack。】

※上記ロストレイルPCイラストは、オンラインノベルRPG『螺旋特急ロストレイル』の世界観にもとづき、作成されたものです。著作権は各イラストレーター様にあります。


★中の人:黒鉄 狂志クロガネ キョウジ
親バカてんこ盛りなPL。
ヲヤジと武人が大好きで、瑠意共々某天人さんに骨抜き。
超ネガティブ思考でディスペアーに取り憑かれ易い要注意人物。近寄ると危険。


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