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天上の睡蓮

 
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12
 
 夜が明けようとしていた。
 コンサート会場に入ったのは、まだ日が暮れるか暮れないかの筈だったのに、あの闇が晴れた時にはすでに深夜を過ぎていたのだ。
 もしかすると、あの中は外と時間の進み方が違うのかもしれないと、痛む体を引き摺りながら、瑠意はぼんやりと空を見上げた、
「おい、瑠意。何ぼんやりしてんだ?」
 先を歩いていた刀冴に声をかけられ、慌てて思考を現実へと引き戻し駆け寄るが、バランスを崩しよろめいてしまう。
「すいません、ぼーっとしちゃって」
「おいおい、ぼーとすんのは帰ってからにしろよ」
 流石に倒れはしなかったが、刀冴に支えてもらいながら家路を急ぐ。なだらかな坂道を上ると、そこはもう古民家だった。

「若! 瑠意殿」
 刀冴を呼ぶ声に顔をあげると、玄関から十狼が出て来る所だった。足早にこちらへとやってくる姿に、思わず足が竦む。
「若、斯様な時間まで、何処に行かれていたのか、お聞かせ願いたいものですな?」
 盛大に眉間に皺を寄せる十狼を手で制しながら、刀冴が瑠意を見遣る。
「まぁ、色々あってな。とにかく瑠意の手当をしてやってくれ、事情は直接聞きゃあいいだろ?」
 言外に何かを含んだ物言いに、思わず俯き肩を落とすが、背中を強く押され十狼の目の前へと歩み出た。刀冴の視線が一瞬眇められ、笑みの形に歪む。
 足早に母屋へと消える刀冴を見送って、十狼は軽く溜め息を吐いた。
 離れで十狼に膏薬を塗って貰いながら、瑠意はコンサート会場で起こった出来事をぽつりぽつりと話した。
「何か、情けないなと思って」
 自分の大切なヒトが、誰よりも大切に想っている相手に刃を向けるなんて。自分の中にこんなにも黒い気持ちが渦巻いていたなんて、思いもしなかった。
 否、気付かない振りをしていたのだろうと、今ならば理解できる。
 何時からだろう、誰に対しても遠慮をするようになったのは。自分の気持ちを素直に告げることは相手にとって迷惑になるのではないかと、いつも思っていた。
 焼きもちを焼いているだなんて言ったら、迷惑がられてしまうのではないか、呆れられてしまうのではないか、嫌われてしまうのではないかと、そんなことばかり考えてしまう。
「瑠意殿が何を持って情けないと仰せなのか、私には理解しかねるが、それも瑠意殿を形作るものではないのか?」
 手際よく包帯を巻いていた十狼の手が止まり、瑠意の目を覗きこむ。
 負の感情は悪しきもの。在ってはならないもの。自分の中には必要のないもの。ずっとそう思ってきた。誰かを羨んだり、恨んだり、憎んだりしてはいけない。
 そう思って目を逸らして来た結果が此れだ。今の自分を情けないと言う他ないと思う。

 あの闇の中で凌牙を手にした時に感じた、柔らかな波動。それは目の前の天人が自分を彼の主と等しく大切に想ってくれている、その気持ちに他ならない。
 こんなにも愛されているのに、自分は他に何を望むというのだろう。
「俺、十狼さんが好きです、誰よりも、好きですよ」
 十狼の肩口に顔を埋め、背に手を回してはっきりと告げる。
 自分の中の虚無を、負の感情を知られるのが怖くて、今まで誰も愛せなかった。目の前の天人は、そんな俺で構わないと言ってくれる。言葉に出さずとも、いつも見守ってくれている。
 その気持ちに応えたいと、強く思う。今はまだ、全てを受け入れられる自信はないけれど、それを含めて俺なんだと言える。
「いつも色よい返事を頂けない瑠意殿に、そのように仰っていただくのは何やら面映ゆいな」
 見上げると、十狼が銀の双眸に微苦笑を浮かべていた。
「だが、私にそのような価値があるとは思えぬが?」
 それは、魔王に最も近い天人と恐れられて来た十狼の本心なのだろう。だが、瑠意にとって、魔王だとか天人だとか、そんな事は関係がなかった。
 だだ、目の前に居る十狼という一個人が好きなだけであって、スターだからとか、天人だからだとか、そういった陳腐な理由などではない。無論、出会った当初は「憧れのムービースター」という気持ちが無かった訳ではないけれど、共に過ごす内に、そんなものは何の意味も持たなくなっていたのだ。
「価値があるとか無いとか、俺には分からない。それを言ったら俺だって価値のない人間ですよ? 俺は、十狼さんが好きなんです。それじゃダメですか?」
 まっすぐに自分の想いを口にして気づく。互いを想う気持ちに違いなど無いと。
「……そうか」
 十狼は柔らかな微笑を浮かべ、瑠意の額に接吻を落とす。それがくすぐったくも嬉しく、思わずくすりと笑い声が漏れる。
「如何された?」
「ん、俺は幸せだと思ってさ」
 不思議そうに見つめる十狼に掠めるような接吻を返し、瑠意が微笑む。
 街には不穏な空気が漂っている。きっと、夢の終わりが近いのだろうと漠然と感じる。だからこそ、悔いのないように今この瞬間を大切にしたい。
 瑠意は、再び十狼の肩口に顔を埋め、幸せそうに笑った。

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すいません。甘々です。
【崩壊狂詩曲・異聞】Envious の後日談(?)という事で。

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★ハーヴェイ・イングラム 24歳
 【ツーリスト】
クラウディア皇国第4騎士団団長。
壱番世界における中世ヨーロッパに似た、魔法や幻獣が存在している世界からやって来た。
元は農民の子だったが、戦禍で両親を喪い彷徨っていた所を、代々皇家剣術指南役を務めているイングラム家の当主に拾われ、史上最年少の騎士団長となる。
甘いものと美味しい物が大好きな食欲魔人。
奢ってくれる人にはすぐ懐く。
 イラスト【新田 みのる】


★狩納 蒼月 37歳
 【ツーリスト】
「狩納 京平」の師匠。
死に瀕して覚醒し、気がつくと異世界にいたが、その理由を覚えていない。
管に収められた「天狐」と呼ばれる式神と、影に潜む二柱の鬼神を使役する。
陰陽道や修験道を得意とし、呪殺、禍事、退魔などを生業とする退魔師。
 イラスト【晏嬰 亮】


★石川 五右衛門 39歳
 【ツーリスト】
海賊。反幕府組織のリーダーとして海賊船「神風丸」を操り、幕府に与する廻船問屋などの船を襲う義賊。
6年ほど前にロストナンバーとなり、壱番世界で行き倒れていた所をとある人物に拾われた。
その人物に対し一宿一飯の恩義を感じ、護衛として主に壱番世界で暮らしている。
壱番世界では「阿久津 刃(アクツ・ジン)」という名で俳優業をしている。
 イラスト【Jack。】


★迦楼羅王 29歳
 【ツーリスト】
武神将(仏法守護神)。
天魔討伐の実動部隊「天竜八部衆」の長。
かつて天上界に対して反乱を起こし粛清され、人間として転生させられていた。
迦楼羅王の前世である「ガルーダ(赤き翼を持つ古の神/鳥の王)」の記憶と、人間であった時の記憶を持っている。
またの名を「天空の食欲魔神」と言うとか言わないとか。
 イラスト【Jack。】

※上記ロストレイルPCイラストは、オンラインノベルRPG『螺旋特急ロストレイル』の世界観にもとづき、作成されたものです。著作権は各イラストレーター様にあります。


★中の人:黒鉄 狂志クロガネ キョウジ
親バカてんこ盛りなPL。
ヲヤジと武人が大好きで、瑠意共々某天人さんに骨抜き。
超ネガティブ思考でディスペアーに取り憑かれ易い要注意人物。近寄ると危険。


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